[技術レビュー]検出出来ない部分放電がIGBTの故障とデジタルシステムへの干渉を引き起こす

18 Feb 2021

IGBTモジュールは、さまざまな高出力電源や大出力モータードライバによく使用されます。高出力を得るためには動作電圧を増加させるので、1,000V前後の動作電圧は珍しいことではありません。各IGBTのゲート駆動回路は独立分離する必要があるため、ゲートとエミッタ間の動作バイアス電圧は独立した絶縁トランスによって供給する必要があります。このトランスが動作しているとき、一次側と二次側の間で高周波および高電圧のPWMスイッチングが発生します(図1を参照)。多くのユーザーやメーカーは、ワイヤー自体の絶縁破壊電圧とワイヤー間の部分放電開始電圧(PDIV)の違いを十分に把握出来ていません。これが、一般的なトランスにおいて正しい絶縁、正しい絶縁設計、および有効な製造検査を実施できない理由です。その結果、IGBTを損傷したり、高電圧放電サージによってデジタル回路にあらゆる種類の異常動作を引き起こしたりします。

Figure 1 – Motor Drive Control Circuit Diagram
図1-モーター駆動制御回路図

トランスの一次側と二次側の電圧差がピーク電圧で1,000V(方形波で)ある場合、特に安全品質を要求されない一般的な設計では、2,000Vを超える電圧に耐えるように設計されます。 そして、絶縁破壊電圧が3,000Vを超える巻き線を使って、トランスの1次側及び2次側を巻きます。 さて、巻き線が近接していても6,000Vに耐えることができるでしょうか?

答えは、1分間は6,000Vに耐えられるかもしれませんが、実際の使用期間中(1,000V方形波)に絶縁破壊を起こす可能性があります。 その理由は、一般的な絶縁体の誘電率は空気の誘電率よりもはるかに高く、その結果、AC電圧の条件下では空気の間隙にかかる電圧の方が絶縁体の間隙にかかる電圧より高くなるためです。 巻き線間の空気の間隙にかかる電圧が 350V_peak(1気圧近接空気放電開始電圧)以上に達して、PD(部分放電)が継続すると、徐々に炭化して短絡に至ります。(図2を参照)。 または、トランス破壊に至る前に、この部分放電サージはデジタル回路に異常な干渉や誤動作を引き起こす事になります。

Figure 2 –Continuous Corona Discharge Leading to Transformer Coil Short Circuit between Primary and Secondary Sides
図2–一次二次トランス巻線短絡に至る継続的コロナ放電

図3に、高出力IGBT制御トランスによる障害の例を示します。 この不良トランスは、部品検査や電源の製品検査では異常とは判断されませんでしたが、使用中においてコロナ放電により明らかに発光しています。 実際の使用環境では、IGBTモジュールの故障やデジタルシステムの異常な誤動作を、トランスの不良と直接関連付けるのが容易ではなく品質問題の解決を困難にします。トランスの改善また別のものに置き換えるまでは、この品質問題は解決する事が出来ません。

Figure 3 –Continuous Corona Discharge Malfunctioning in High Power IGBT Control Transformer
図3-高出力IGBT制御トランスの持続コロナ放電の障害例

通常、トランス業界では仕様に応じた耐電圧試験のみを実施し、PDやフラッシュオーバーの試験は行っていません。その結果、このような問題は、さまざまな電気・電子製品に使用される電源で広く発生します。PDやフラッシュオーバーの問題を回避するには、トランスの動作条件において持続的なPDの発生がないことを確認しておかなければなりません。関連する規制(例:IEC60747-5-5)では、長期的な製品品質を確保するために、使用可能性のあるもっとも高い電圧の1.875倍の電圧(数秒間)でPDの発生がない事(例:PD <15pC)を製品検査で検査しておく必要があると示唆しています。1,000Vピークの、あるアプリケーション例では、約1.325kVrms @ 60Hz(1.875kV_peak)、PD <15pCが適切な検査条件でありました。(このアプリケーション例の実際に測定された部分放電開始電圧は、わずか約400Vacであり、期待される品質能力をはるかに下回っていました)

Chroma 19501シリーズ製品は、AC耐電圧試験(10kVac)および部分放電(1pC〜2,000pC)テスト機能を提供します。高電圧製品の部分放電(PD)異常検出に最適なソリューションです。本テスタは、貴社製品の品質と信頼性の永続を見守ります。

Chroma 19501
図4– Chroma19501-K部分放電テスター

また、不良箇所の確認や設計改善のための異常加速試験(PD劣化速度は周波数にほぼ比例)には、Chroma11890プログラマブルHFACテスター(5kVrms / 100mA / 10kHz〜200kHz)を用意しています。

 Chroma19501部分放電テスターまたはChroma11890プログラマブルHFACテスターの機能と仕様の詳細については、ChromaWebサイトにアクセスしてください。

 

フォトカプラ製品向部分放電試験器 Model 19501-K

 

プログラマブル高周波ACテスタ Model 11890